本文へスキップ
totonoe
雑学・読み物

SOSはなぜ「・・・───・・・」なのか──モールス信号に隠れた設計思想

遭難信号SOSの「・・・───・・・」は覚えやすさと聞き分けやすさで選ばれた記号でした。モールス符号がアルファベットの出現頻度に応じて長さを変えている設計思想もあわせて解説します。

映画やドラマで、遭難した船が無線で「・・・───・・・」を打ち続ける場面を見たことがある方は多いはずです。短点3つ、長点3つ、また短点3つ。この単純な繰り返しがなぜ「助けてくれ」を意味する世界共通の合図になったのか、考えたことはあるでしょうか。

結論を先に書きます。

SOSは「Save Our Souls(我らの魂を救え)」の頭文字ではなく、単に「聞き取りやすく、誤解のしようがない記号」として選ばれた符号です。そしてその背景にあるモールス符号自体も、よく使う文字ほど短い符号を割り当てるという、合理的な設計思想でできています。


SOSは「言葉」ではなく「形」で選ばれた

SOSという文字の並びは後から意味づけされた俗説(バックロニム)で、もともとは特定の単語の略ではありません。1906年の国際無線電信会議で、遭難時の統一信号として採用されたのが始まりです。

選ばれた理由は、符号としての形の単純さにあります。

  • 短点3つ、長点3つ、短点3つという左右対称の並びで覚え間違えにくい
  • 文字と文字の間の区切りをなくして一続きに打つ「プロサイン」として扱われ、雑音の多い無線でもひとつのかたまりとして認識しやすい
  • 単純な繰り返しパターンなので、モールス符号に不慣れな人でも**「何かの合図らしい」と気づける**

つまりSOSは、意味のある単語を暗号化したものではなく、「これさえ覚えれば伝わる」という一番シンプルな記号として工学的に選ばれた合図だったわけです。

モールス符号そのものの設計思想

SOSという特定の合図だけでなく、モールス符号全体にも一貫した設計思想があります。それは、よく使う文字ほど短い符号にするという発想です。

文字符号出現頻度の傾向
E・(短点1つ)英文で最も出現頻度が高い
T─(長点1つ)2番目に出現頻度が高い
Q─── ─ ・─出現頻度が低い
Z─── ─── ・ ・出現頻度が低い

英語の文章で最も頻繁に登場するETに、それぞれ最短の1符号(短点だけ・長点だけ)が割り当てられています。逆にQZのようにあまり登場しない文字には、長くて複雑な符号が回されています。

なぜ頻度に応じて長さを変えたのか

この設計は、電信を打つ現場の効率を大きく左右します。もし全ての文字が同じ長さの符号だったとしたら、頻繁に打つ文字にも珍しい文字にも同じ手間がかかってしまい、通信全体が遅くなってしまいます。

よく出る文字を短く、めったに出ない文字を長くすることで、文章全体を打つのにかかる時間の合計が短くなるという発想です。これは後の時代の情報理論で「効率的な符号化」として体系化される考え方を、19世紀の段階ですでに実務レベルで先取りしていたともいえます。

記号としての合理性を体感する

SOSが「言葉」ではなく「聞き分けやすい形」として選ばれたこと、そしてモールス符号全体が文字の出現頻度に応じて長さを最適化していたこと。この2つを知っておくと、モールス信号がただの古い暗号ではなく、通信の効率を突き詰めた設計物だったことが見えてきます。

実際にアルファベットや短い文章をモールス符号に変換して、どの文字が短くどの文字が長いかを眺めてみたい場合は、モールス信号を整える で自由に試せます。よく使う単語を打ってみると、意外と短点の多い軽快な並びになることに気づくはずです。

KOINOBORI ECOSYSTEM

私たちが運営するサイト