現存天守はなぜ12しかないのか──積み重なった3つの時代の波
江戸時代に多く建てられた天守が、なぜ現存12天守しか残っていないのかを、明治の廃城令・その後の火災や老朽化・戦時中の被害という3つの時代の波から整理します。復元との違いも解説します。
この記事のポイント
- 現存天守が12しかないのは、時代の違う3つの波が重なった結果
- 「復元」「復興」は後世の再建で、「現存」とは成り立ちが違う
- 「日本のお城を整える」で現存・復元・復興の別を絞り込める
- Q.
- 現存天守はなぜ12しかない?
- A.
- 単一の出来事ではなく、性質の異なる3つの時代の波が重なった結果です。明治の廃城令、その後の火災や老朽化、太平洋戦争末期の被害を経て、残ったものが現存12天守にあたります。
日本100名城を巡っていると、同じ「天守」でも案内板に「現存」「復興」「復元」と表記が分かれていることに気づきます。江戸時代には全国に多くの天守が建っていたはずなのに、当時のまま残っているのは現存12天守と呼ばれるごく一部だけ——なぜここまで数が絞られたのか、気になった方も多いはずです。
結論を先に書きます。
現存する天守が12にとどまっているのは、単一の出来事のためではなく、時代の異なる3つの波が積み重なった結果というのが一般的な理解とされています。明治初期の廃城令、その後の時代における火災や老朽化による喪失、そして太平洋戦争末期の被害——性質の異なるこれらの波を経て、残ったものが今の現存12天守にあたります。
波1:明治の廃城令が城の役割を終わらせた
明治維新のあと、政府は全国の城を軍事施設として存続させるか、廃止するかを整理する方針を打ち出しました。いわゆる廃城令と呼ばれる一連の措置です。これにより、城郭は「陸軍が引き続き使用する施設」と「用途を失い、解体・払い下げの対象になる施設」に分けられ、天守を含む建物の多くが取り壊されたり、売却されたりしました。
この時期に失われたのは天守だけではなく、城郭全体の建造物や堀・石垣の一部にも及びます。江戸時代を通じて維持されてきた城が、軍事的な価値を失った施設として整理されるという、時代の転換点にあたる出来事でした。
波2:維持されず失われた天守
廃城令を生き延びた天守であっても、その後の時代の中で失火や老朽化により失われた例が複数あるとされています。木造の建造物である天守は、日常的な維持管理を欠くと劣化が進みやすく、また火災の被害を受けると再建に大きな費用と技術を要します。江戸時代を通じても実際に落雷や失火で天守を失い、再建されなかった城が複数存在したと伝えられています。
この波は特定の一つの事件というより、長い年月の中で維持され続けることの難しさそのものを表しています。城の天守は見た目こそ堅牢な石垣の上に建つ建造物ですが、構造自体は木造であり、屋根の葺き替えや梁の補修といった継続的な手入れを欠くと、災害に限らずとも劣化が進んでしまう性質を持っています。
波3:戦時中の被害
太平洋戦争末期には、空襲により天守を含む建造物を失った城が複数あったと一般に伝えられています。この時期に失われた天守の多くは、戦後になって鉄筋コンクリート造などで外観を再現する形で再建され、現在は「復興天守」として親しまれています。個々の被害の詳しい経緯には諸説や地域ごとの記録の違いもあるため、ここでは大きな時代の流れとして押さえておくのが実用的です。
「現存」と「復元」はどう違うのか
こうした3つの波を経て、江戸時代以前の建材・構造をほぼそのまま今に伝えているものだけが「現存天守」と呼ばれます。それ以外で後世に建て直されたものは、次のように呼び分けられています。
| 呼び方 | 意味 |
|---|---|
| 現存天守 | 江戸時代以前の建物が、大きな改変なく今も残っているもの |
| 復元天守 | 史料に基づき、当時の姿を忠実に再現して建て直したもの |
| 復興天守 | 史料が十分でない部分を含みつつ、外観を中心に再建したもの |
同じ「天守がある城」でも、この3つは成り立ちがまったく異なります。現地で天守を見上げたとき、それが積み重なった時代の波を生き延びたものなのか、後世に再建されたものなのかを知っているだけで、見え方は変わってきます。
3つの波をくぐり抜けて今に残る現存12天守は、弘前城・松本城・丸岡城・犬山城・彦根城・姫路城・松江城・備中松山城・丸亀城・松山城・宇和島城・高知城です。このうち姫路城・松本城・犬山城・彦根城・松江城の5城は、歴史的・建築的価値が特に高いとして国宝にも指定されています。北は青森から南は四国の愛媛(宇和島)・高知まで全国に散らばっているのは、廃城令・維持の難しさ・戦時中の被害という、地域を問わず等しくかかった3つの波を、たまたま免れた城だけが残った結果だといえます。
日本のお城を整える では、日本100名城を天守の現存・復元・復興の状況で絞り込め、現存12天守の高さランキングや築城年の古い順も一覧で確認できます。旅先で見た城が現存なのか復興なのか、その場でさっと調べたいときにも使いやすい一覧です。廃城令が出された明治の初めや、天守が再建された年代に何が起きていたかを合わせて知りたいときは、時代を整える で西暦・和暦を入れるとその年の出来事が一覧できるので、城の歴史を大きな時代の流れの中に置いて眺めることができます。