退職金の税金は勤続年数で決まる──退職所得控除と2分の1課税、20年の前後で何が変わるか
退職金の所得税は、退職金から退職所得控除を引いて2分の1にした額に税率をかけて決まります。控除は勤続20年を境に年40万円から年70万円に増えます。国税庁の例で計算し、申告書を出さない場合の20.42%との差や、勤続年数の端数の扱いも整理します。
この記事のポイント
- 控除は勤続20年まで年40万円、20年超は年70万円ずつ増える
- 勤続の端数は1年に切り上げ、申告書を出さないと20.42%引かれる
- 「退職金の手取りを整える」で控除と税額を試算できる
- Q.
- 退職金の税金はどう計算する?
- A.
- 退職金から退職所得控除を引き、残りを2分の1にして税率をかけます。控除は勤続20年以下なら40万円に勤続年数をかけた額で、20年を超えると800万円に超えた年数ぶん70万円ずつ加わります。役員や勤続5年以下では2分の1が使えない場合があります。
退職金の税金は、勤続年数が長いほど軽くなります。税額の計算式は「(退職金-退職所得控除額)×1/2」で、この控除額が勤続年数で決まるためです。しかも控除額の増え方は、勤続20年を境に変わります。
この記事は、国税庁のタックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」と No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」(ともに令和8年4月1日現在法令等)にもとづき、2026年9月時点の内容で書いています。
結論:控除額は20年で増え方が変わる
退職所得控除額は、勤続年数をAとして次のように決まります。
| 勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×A(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(A-20年) |
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、この額に100万円が加わります。
計算してみると、20年の前後で増え方が変わることがわかります。
| 勤続年数 | 控除額 | 前の年からの増加 |
|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | 40万円 |
| 19年 | 760万円 | 40万円 |
| 20年 | 800万円 | 40万円 |
| 21年 | 870万円 | 70万円 |
| 30年 | 1,500万円 | 70万円 |
| 35年 | 1,850万円 | 70万円 |
勤続20年までは1年ごとに40万円、21年目からは1年ごとに70万円増えます。20年を境に、1年長く勤めたときの控除の増え方が大きくなるのが特徴です。退職金が控除額以下であれば、課税される退職所得はゼロになり、所得税はかかりません。
2分の1課税と、国税庁の計算例
退職所得は、控除を引いた残りを2分の1にして税率をかけます。2分の1にする点が、給与や賞与と違うところです。国税庁の例を、そのまま追ってみます。
例1:退職金800万円、勤続10年2か月
- 勤続年数は端数の2か月を1年に切り上げて11年
- 退職所得控除額は40万円×11年=440万円
- 課税退職所得金額は(800万円-440万円)×1/2=180万円
- 税額は180万円×5%×102.1%=91,890円
最後の102.1%は、所得税に復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加える計算です。
例2:退職金2,300万円、勤続29年2か月
- 勤続年数は30年に切り上げ
- 退職所得控除額は800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
- 課税退職所得金額は(2,300万円-1,500万円)×1/2=400万円
- 税額は(400万円×20%-427,500円)×102.1%=380,322円(1円未満切り捨て)
どちらも税率は所得税の速算表(課税される所得金額が195万円未満で5%、330万円未満で10%、695万円未満で20%など)にあてはめています。課税退職所得金額は、1,000円未満を切り捨てて使います。
同じ1,500万円でも、勤続年数で税額は変わる
退職金を1,500万円に固定して、勤続年数だけを変えてみます。上の国税庁の計算方法に当てはめた試算で、所得税は復興特別所得税を含み、1円未満を切り捨てています。住民税は含みません。
| 勤続年数 | 控除額 | 課税退職所得金額 | 所得税(復興特別所得税込み) |
|---|---|---|---|
| 10年 | 400万円 | 550万円 | 686,622円 |
| 20年 | 800万円 | 350万円 | 278,222円 |
| 21年 | 870万円 | 315万円 | 222,067円 |
| 30年 | 1,500万円 | 0円 | 0円 |
勤続10年と20年では、同じ退職金でも所得税が約41万円違います。20年と21年の差も56,155円あり、1年の差で控除が70万円増える効果がそのまま税額に出ています。勤続30年では控除が退職金と同額になり、所得税はかかりません。
勤続年数を数える期間は、原則として退職金の支払者のもとで退職の日まで引き続き勤務した期間です。長期の欠勤や病気での休職の期間も勤続期間に含まれ、合併前の法人で勤務した期間も含まれる場合があります。
退職金に含まれるお金、含まれないお金
「退職手当等」には、本来の退職金のほかに、退職したことが理由で支払われるすべての給与が含まれます。功労金などを別名目で出しても、退職手当等として合算します。一方、死亡退職で支払われる退職手当等のうち、相続税の対象になるものは所得税の対象にならないため、源泉徴収は不要です。
退職金の支払いを受ける側から見ると、「退職金」という名目の額だけでなく、退職を機に出る一時金の合計が計算の対象になる、と覚えておくと安全です。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと20.42%
勤め先に「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、ここまでの計算で源泉徴収されます。出していない場合は、退職金の支給額に一律20.42%(所得税と復興特別所得税)が源泉徴収され、あとから本人が確定申告で精算します。
例1の800万円で比べると、次のとおりです。
| 申告書 | 源泉徴収される額 |
|---|---|
| 出している | 91,890円 |
| 出していない | 1,633,600円(800万円×20.42%) |
差は1,541,710円です。確定申告で精算する性質のお金ですが、一時的に手元から出ていきます。退職が決まったら、申告書を勤め先に出しておくのが基本です。
申告書を出して源泉徴収が済んでいる場合、原則として確定申告は要りません。ただし、医療費控除や寄附金控除を受けるために確定申告書を出すときは、退職所得の金額もその申告書に書く必要があります。
間違えやすい点
- 端数は切り上げ。 勤続10年2か月は11年として数えます。1年未満の端数は、1か月でも1年になります。
- 役員は2分の1にならない場合がある。 役員等としての勤続が5年以下の「特定役員退職手当等」は、2分の1計算を使いません。
- 勤続5年以下の一般の社員も一部は対象外。 「短期退職手当等」は、控除後の額のうち300万円を超えた部分に2分の1計算を使いません。
- 前の退職金があると控除額が変わる。 前年以前に退職金を受け取っている場合や、同じ年に2か所から受け取る場合は、重複する期間を調整するため、控除額が減ることがあります。確定拠出年金の老齢給付金を一時金で受け取った場合は、その前後の受け取りまでの年数(4年内、9年内、19年内など)に応じて調整のしかたが変わります。国税庁のタックスアンサー No.2732 に条件が載っています。
- 報酬の源泉徴収とは別の計算。 原稿料などの報酬にかかる10.21%の源泉徴収と、退職金の計算は別物です。
令和9年以後は所得税、防衛特別所得税、復興特別所得税に分かれますが、国税庁は合計の税率が変わらず、源泉徴収税額の計算方法は変わらないとしています。
数字で確かめる
手元の金額で試すなら、「退職金の手取りを整える」に退職金の額と勤続年数、役員か一般かを入れると、控除額・課税退職所得・税額・手取りを一覧にします。住民税もあわせて計算するため、国税庁の例の所得税だけを見たい場合と、数字が一致しないことがあります。また、税額は百円未満を切り捨てた目安なので、勤め先が実際に源泉徴収する額とは1円単位でずれる場合があります。たとえば例1は、目安で91,800円、国税庁の計算では91,890円です。
退職金ではなく、原稿料や講演料の源泉徴収を確かめたいときは「報酬の源泉徴収を整える」を使います。